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英語の様々な音
橋沼克美
最近『英語耳』という本がベストセラーになっているが、要するに「聞く耳」を持ってないと発音も上手くならないという当たり前のことをいっているのである。英語と日本語とでは発音・文法・文字の体系がいずれも全く違う。この点をしっかり頭に入れておかないと英語を学ぶ効率が悪くなる。

「聞く耳」を鍛えるのには、数多くの英語を聞くのが大切なのは勿論だが、英語の発音の体系について知っておくとなおよいだろう。具体的には発音記号を覚えることと、個々の記号が表す音との対応関係を知ることである。大別すれば、英語の音は母音・子音・それ以外の3種類である。 母音は、基本的には日本語の「あいうえお」 (英語では “aeiou”の順でいうのが普通)に近いが、実際にはどの音も日本語の音とは微妙に(場合によってはかなり)違うし、「ア」と表記し得る音だけとってみても、/α/, /а/, / æ/, / ə /, /ʌ/ と五つもある。子音に至っては、日本語の子音と同じものはほとんどないし、近いものも少ないと考えてよい。 比較的よく知られている /r/と /l/の違いは、それぞれ表記文字が“r”と“l”であることから、英語の場合は決定的である。日本語の「らりるれろ」はローマ字では便宜上 “rarirurero”と表記するが、英語の/rarirurero/, /lalilulelo/のいずれとも違う。この違いは耳で聞いてわかるようであれば問題ないが、/r/は/l/よりもむしろ/w/に近いということを知っていれば(/r/と/w/は、口の形を丸くすぼめた円唇音という)より鮮明に違いが意識されるだろう。等々、英語の音を認識するためには、その体系について知っておくと役に立つことを簡単に述べた。

また、世界言語である英語と一口にいっても、イギリス英語、アメリカ英語を初め、地域(または社会集団や階層)によってかなり違いがあることは、わが国の中等および高等英語教育がほとんどアメリカ英語を中心に行われているため、一般に認識が不足しているように思われる。アメリカ英語発音の起源は、大量に移民が始まった17世紀のイギリスに遡る。現在のイギリス英語発音は17世紀以来かなり変化してきたもので、発音の点から見れば、アメリカのほうがイギリスよりも古いのである!同じ移民によってできた英語圏であるオーストラリアは、18世紀にはイギリス(イングランド・スコットランド・ウェールズ・アイルランドを含める)の犯罪者の流刑の大陸であった。しかし、今日「オーストラリア英語」(Aussie English)と呼ばれるものは、現在のイギリス英語に近く、アメリカ英語とは明らかに違うのは面白い。また、今のアイルランド共和国の英語発音は、一般にアメリカ英語に近いのも同様に興味深い。このように、アメリカ英語・オーストラリア英語・アイルランド英語(他にもナントカ英語というのがたくさんある!)などは英語発祥の地イングランドの方言なのである。

私はイギリスとアイルランドを専門にしているが、Microsoft社のWORDを使っている
と、イギリス英語の綴りが要スペルチェックの赤い波下線が表示されて苛つく事がしばしばある。何につけても(英語という概念も含めて)アメリカだけが世界標準(グローバル・スタンダード)であるかのような昨今の我が国の風潮は、現実とは明らかに異なるものだということを付け加えておきます。(さらに付け加えるならば、世界標準時[GMT=Greenwich Mean Time] は18世紀以来未だにロンドン近郊グリニッチであり、アメリカではありません!) 




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コミュニケーションをとる? (2007年7月5日)









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