辞書案内




英語の辞書は大きくわけると、これまでみなさんがおもに使ってこられた学習用英和辞典/和英辞典、英和/和英中辞典のほか、英和/和英大辞典、英英辞典、類語辞典などがあります。和英辞典はこれから英英辞典にむしろシフトしてほしいということで、ここでは省きますが、それ以外の主要な辞書、その使い道を簡単にご紹介したあと、また最近普及している電子辞書についても少々触れたいと思います。

1.学習用英和辞典、英和中辞典
 皆さんがこれまでの英語学習で使ってきた代表的な英和辞書は一般に学習辞典と呼ばれています。代表的なものは以下のとおり。

『ジーニアス英和辞典』(第4版、大修館書店、2006)
『新グローバル英和辞典』(第2版、三省堂、2001)
『新英和中辞典』(第7版、研究社、2003)

これらの辞典の強みはなによりも基礎固めのためのツールが充実しているということです。発音記号、不規則動詞の変化形が完備され、また例文も充実しています。とりわけ、基本的な動詞の用例はたいへん豊富です。つまり、普段の読み書き、会話などで使用頻度の高い単語について徹底的に用例をあげて解説してあることがその特徴ですから、自分が使う英語の基本を教えてくれるものとして、今後もこれらの辞書は捨てたりしないで使い続けてください。
 ただし、新聞や雑誌の記事を読むときなどに、以上の辞書には載っていない語があることに気がつくでしょう。学習辞典は用例や例文にスペースを割いた分だけ語彙数が少ないのです。ですから大学生になってあらたに辞書を足す場合には、以下の中辞典のどれかをお手元におくことをおすすめします。

『プログレッシブ英和中辞典』(第4版、小学館、2003)
『リーダーズ英和辞典』(第2版、研究社、1999)
『グランドコンサイス英和辞典』(三省堂、2001)

上記のどれかがあれば、たいていの単語はまかなうことができるでしょう。上の2つは本当に中辞典ですが、最後のひとつは中辞典の体裁でありながら語彙は大辞典なみの35万語で、その分大辞典と同様、例文が犠牲になっています。そして、さらにあると「超・便利」なのがこれ。

『リーダーズ・プラス』(研究社、2000)

上記『リーダーズ』には収まらなかったけれどもあると便利な、たとえば雑誌の名前、人名、新しい単語、口語やスラングなどが大量におさめられているのが『リーダーズ・プラス』なのです。『リーダーズ』とあわせて『リーダーズ+プラス』というすぐれもののCD-ROMもあります。これまで学習辞典しか使っていなかった人は、中辞典のうち、まず最初に挙げた2冊のうちのいずれかを手に入れて普段使いにすること、そしてがんばれる人にはさらに『リーダーズ・プラス』や『グランドコンサイス』、あるいは以下に挙げる大辞典を使うことを学んでほしいと思います。

2.大辞典
『新英和大辞典』(第6版、研究社、2002)
『ランダムハウス英和大辞典』(第2版、小学館、1993)
『ジーニアス英和大辞典』(大修館、2001)

中辞典にすら入らない単語までも網羅したものが大辞典と呼ばれるこれらの辞典です。これらは25万~35万語を収録、最新の科学技術用語や各種専門用語まで、ちょっとした百科事典としても使えるくらいですが、ただし学習辞典と対照的に、用例はぐっと抑えられています。値段もお高いですし、百科事典のように大きいですから、英語を専門として生きていくのでないかぎり、図書館で使えばよい辞書でもあります。
 大切なことは、学習辞典、中辞典、大辞典の特徴を押さえて使い分けることです。日常読むときには中辞典、読み書きの基本には学習辞典、難しいものを読みたい時には大辞典を使うというように、それぞれの位置づけをして使いこなしてください。

3..英英辞書
 大学生になったら、これは必須です。語彙を増やすためにも、英語に慣れるためにも、です。基本的なところとしては以下のようなものがあります。

Collins Cobuild Advanced Learner’s Dictionary (Collins 4th ed, 2004).
Oxford Advanced Learner’s Dictionary of Current English (7th ed.,Oxford
University Press, 2005)(『オックスフォード現代英英辞典 第7版』)
Longman Dictionary of Contemporary English (4threviseded.,Longman,2005)
(『ロングマン現代英英辞典 4訂新版』)

最初にあげた『コウビルド』はBank of Englishという言語資料の巨大データベースを元に「使われている」語を説明した辞書。その定義はその語を文中で使った定義となっていることが特徴で、その文を見るだけで言い換えの表現がわかったり使い方がわかったりと何かと便利。残り2冊も定番と言えるもので、『コウビルド』と違って、定義のみを書いてあるぶんだけその定義は精緻です。
 いずれにしても英和の中辞典とならんで、これらのどれか一冊を日常使いにすることを強くおすすめします。英語の単語が英語で説明されていることによって、ひとつの語を言い替えるとどんなふうになるのか、自分の中の表現が多彩になりますし、なにより英語に対する心理的なハードルも低くなるでしょう。
 ところで、英語にも大辞典と言えるものがあります。アメリカ英語ならば

Webster’s Third New International Dictionary (Merriam Webster, 2002).

そして「英国語」ということであれば、世界的にも有名なOEDこと

Oxford English Dictionary (2nd edl, Oxford University Press, 1989).

英国中から例文を募って作られたこの「国民的」大辞典が図書館の参考図書の本棚に20冊プラス5冊、堂々並んでいるのは壮観です。今はCD-ROM版があるわけですが、いちどは20冊をどうぞ間近で見て、何か単語を引いてみてください。その語義も古いところから順番に出ていますので、英語の単語の変遷が手に取るようにわかります。この辞典を眺めやって、ひとつの単語がいかに社会の変化とともにその意味を変容させていくのか、それプロセスを追いかけたレイモンド・ウィリアムズの『キーワード辞典』(平凡社)は、OEDなくしてはできなかった一冊でしょう。
 そして、さらにシソーラス(Thesaurus、類義語辞典)もいろいろあります。これらは自分の語彙を広げるのに有効なだけではなく、英文を書くときにも、表現のヴァリエーションをつける道具として大変便利なものです。

4.電子辞書
 さて、電子辞書を抜きに現在の辞典は語れないと言ってもよいでしょう。さきほど英和辞典について、自分のなかで位置づけをして使い分けてほしいと書きましたが、電子辞書にも同じことが言えます。軽くて便利。けれども電子辞書は引いた単語以上のことは出てきませんから辞典を引いたときその前後を眺めるという有効な学習方法が取れません。また、たいていの場合、例文は出ているとしてもあまり多くはありませんし、しかも例文を指定しないと見えてこない。つまり紙の辞書のように最初から例文が目に飛び込んでくるようにはできていないのです。とても便利ではありますが、それゆえにじっくり学習することには残念ながら不向きです。ためしに同じ単語を?用例の多い基本的な動詞などを?紙の辞書と電子辞書で引き比べてみてください。同じ『ジーニアス』でも、ずいぶんと見え方が違うことに気がつくでしょう。そして、目をざっと走らせたときの情報は紙の場合のほうがずっと多いし、結果として学ぶことも多いということにも気がつくでしょう。電子辞書は持ち歩きには断然便利ですから、どんどん使うとよいですが、しかし以上のような欠点もまた持ち合わせているものであることを念頭に置いて使うことがとても大切だと思います。
 上でご紹介した各種辞典と合わせると、ここで選べばよい辞書の組み合わせも見えてきませんか?たとえば現在『リーダーズ』と『リーダーズ・プラス』がはいっており、なおかつCOBUILDなどの英英辞典、およびシソーラスが入っている組み合わせの電子辞書はごくポピュラーですから、普段使いには少なくとも中辞典と英英辞典が入っているものを選ぶとよいでしょう。ほかに少々値段が張りますが、ランダムハウスや研究社の大辞典、『ジーニアス』の大辞典など、いわゆる大辞典がはいっているものもあります。さらには最近では『ブリタニカ』百科事典が搭載されたものもあり、しかもどれも以前よりずっと反応速度があがっています。今自分が持っているもの、これから必要になるものをじっくり見極めて手に入れてください。
 英語の学習には永遠の辞書引きと言える部分があると思います。わたしたちの日本語ですら完璧ではないのですから、当然のことです。よく、英語ができる人は辞書を引かないでもよい人のことだという思い込みを耳にしますが、そんなことは決してありません。辞書から学ぶことは今も、この先もたくさんあるのです。たとえば、英英辞典で定義をじっくり眺めると、その意味が深く理解できます。実際わたしは、翻訳で訳語に煮詰まったときには英英辞典に、とりわけOEDに立ち戻ってその定義をよく読むことにしています。そうやって意味を噛み砕くことで、従来辞書にはなかった訳語を思いつくことがあるからですし、またすでにある訳語を使う場合にも、自分の中で理解が確実に深まるからです。たよりになる参照先として、まめに辞書を引く習慣をつけ、英語と仲良くしていきましょう。 (越智博美)
                               


              


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