辞書案内




 慣例に従って、学習用辞書、英英辞書、大辞典、電子辞書の4つに区分し、それぞれについて順に説明することにしましょう。

1.学習用辞書  この種の英和辞典はすでに持っている人が多いでしょう。中学校・高校から少なくとも数年間は使い慣れているはずで、慣れたものを今後も使っていくのがよいと思います。代表的なものとしては、
 『ジーニアス英和辞典』(第3版、大修館書店、2001)
 『新グローバル英和辞典』(第2版、三省堂、2001)
 『プログレッシブ英和中辞典』(第4版、小学館、2003)
 『新英和中辞典』(第7版、研究社、2003)
などが挙げられます。いまどきの学習用英和辞典は本当によくできており、私たちの学生の頃にくらべると、隔世の感があります。おそらく、二カ国語辞典(英和のように、ある言語を別の言語で説明した辞典)の歴史において、これほど完備した辞書が存在したことはかつてないでしょう。語法、用例、可算名詞・不可算名詞の区別、動詞の文型、類義語、頻度、文のイントネーションの表示といった情報を、二色刷で親切丁寧に与えてくれます。このようにすぐれた辞書を使って学習した人が、英語ができるようにならないとは考えられないほどです。ですから、使い慣れた学習用辞書を存分にひいてください。知らない単語、疑問に思った用法などがあれば、面倒がらずにすぐに辞書に当たることです。また、当面必要な情報を検索するだけでなく、その周辺の項目を「読む」習慣をつけることも、英語学習の上では大いに役に立ちます。

2.英英辞書
 英語学習のある段階までは、日本語併用が最も効率的な方法だと個人的に考えていますが、すべての英語の単語・語法・文を日本語を通してのみ理解することは不可能です。類義語相互の差異、ネイティヴ・スピーカーが用いる自然な例文などを知るためには、外国人の英語学習者用につくられた英英辞書(英語を英語で説明した辞典)が有用です。代表的なものとして、
  Oxford Advanced Learner’s Dictionary of Current English (7th ed., Oxford University Press, 2005)
  (『オックスフォード現代英英辞典 第7版』)
  Longman Dictionary of Contemporary English (4th revised ed., Longman, 2005)
  (『ロングマン現代英英辞典 4訂新版』)
を挙げておきます。どちらにも、CD-ROMつきのものがあります。二つとも学習用英英辞書の「老舗」で、語義説明、動詞の文型、例文が平易な英語で書かれています。英語の単語・イディオムをおおよそ対応する日本語の単語・イディオムに置き換えるのとは違って、英語で説明されているために、いわば内側から英語を理解できるのが英英辞典のよさですが、それだけでなく、たえず英語だけで辞書をひくことによって英語への抵抗感が減少するという利点もあります。

3.大辞典
 大学での英語学習に当面必要な辞書としては、上に挙げた学習英和・英英で十分ですが、専門的な術語や新語が出てくる学術論文・新聞雑誌を読むときには、それだけでは足りません。そこで、学習用辞書には載っていない単語を掲載した大辞典が必要となります。
 『リーダーズ英和辞典』(第2版、研究社、1999)
 『新英和大辞典』(第6版、研究社、2002)
 『ランダムハウス英和大辞典』(第2版、小学館、1993)
 『ジーニアス英和大辞典』(大修館、2001)
など。これらは、大体25万〜35万語を収録していますから、大概の場合に対応できるでしょう。ただし、大辞典の常として、サイズが大きく持ち運びに適さず、値段も張ります。よほど熱心な英語学習者を別にすれば、購入する必要はなく、図書館で利用するか、電子辞書に入っていればそれを使うのでよいと思います。また、この種の大辞典には、学習用辞書のように懇切な初学者に役立つ情報は書いてありませんのでご注意。学習英和との併用が必須です。もう一つ、新語を調べるときに個人的に時々お世話になるものを挙げておくと、
  The New Oxford Dictionary of English (Oxford University Press, 1998)
があります。世界中で用いられる言語となったために、英語にはさまざまな他言語に由来する新語がどんどん増加していますが、この辞書は「世界言語」としての英語に留意しつつ語彙を採録しています。日本語由来の単語としては、otaku, anime, mangaなども収録されています。

4.電子辞書
 ハードウェアとしての電子辞書にはここでは触れません。必要なコンテンツ(上記の各種辞書の多くが収録されているはず)・機能と値段を勘案して、自分に合った機種を選べばよいでしょう。ここでは、電子辞書の使い方について私見を述べます。学生の皆さんは、自宅でも教室でももっぱら電子辞書を使っている人が多いように見受けます。確かに、電子辞書は薄くて軽いため携帯に便利なのですが、欠点もあります。まず、電池が切れると表示しません。次に、一度に10行程度しか表示できないので、「一覧性」や「可読性」の点で冊子体(紙に印刷した)辞書に劣ります。基本的な単語の場合、項目が何十行にもわたることがありますが、電子辞書はどんどん下へスクロールしていかないと全体を見渡すことができません。冊子体なら、一目でどこに何が書いてあるかがわかります。人間の視線の移動はコンピュータの動作よりも速いのです。 また、このことからして、電子辞書は、「この情報がそこにあるはず」という事前の知識がある人にとって最も使いやすいメディアです。所与の単語の品詞・用例・イディオムなどに関してあやふやな知識しかない初学者は、目指す情報がどこにあるのか、そこにあるのかどうか、そもそも自分が目指している情報が何なのか、理解していないことが多く、電子辞書とは相性が悪いのです。学生の頃、古典ラテン語の大先生の授業に出席してある詩人の詩を読んだことを思い出しますが、先生はランゲンシャイトの多分下から二番目に小さいサイズの羅独(ラテン語=ドイツ語)辞書を時々確認のために参照しておられました。こういう小辞典で済ませるのは、それまでに大辞典をさんざんひいた経験のある碩学の特権であり、未熟者は真似をしてはいけない行為です。電子辞書もまた同じ。両方とも、「そこにあることを確信している情報」を確認するために参照するのに使うべきなのです。
 お勧めしたいのは、自宅に冊子体の学習用英和と英英を一冊ずつそろえて予習・復習に用い、電子辞書は、できれば冊子体と同じ辞典を教室で確認のために参照する、という利用法です。いずれにせよ、辞書とうまくつきあって、英語学習をしていくことを期待しています。外国語の能力とは、つまるところ、語彙・文法の知識と反復練習との総和です。少なくとも前者については、学生の皆さんは人類史上まれに見る有利な環境に置かれているわけですから、辞書を丹念にひいて、英語を「自分のもの」にしてください。  (榎本武文)

              







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